頭が良い人ほど騙される『ピエロがお前を嘲笑う』感想〜伏線・結末解説と考察(ネタバレあり)〜
本日、ドイツのマインドファック映画『ピエロがお前を嘲笑う』を見ました。非常に巧みな伏線と、どんでん返しの結末がとにかく面白かったので、感想と解説を書いてみたいと思います。
マインドファック映画は、この映画のように、最後の最後でどんでん返しがあり、脳に電気が走るような爽快感が味わえるのが特長です。
私は、事前情報無しに見たのでマインドファック映画だとは知らなかったのですが、なんとなく伏線を拾っているうちに、まんまとミスリードにたどり着いてしまいました(笑)
そういう意味では、最初からどんでんがえしがあると思ってひねくれて見るよりも、素直に見た方が楽しめると思います!また、上手に伏線をひろえた人ほど最後で騙されるので、頭のいい人ほど騙されると言えるかもしれません。
以下、解説になります。ネタバレですので、まだ見てない方はご注意を!
まずは結末の振り返り。結局どういうことだったの?
まず、超簡単に物語を振り返ると、内気で孤独な主人公ベンヤミンは凄腕のハッカー。マックスらハッカー集団との出会いをきっかけとし、様々なハッキングを仕掛け、認知度を上げていく。
ところが、ベンヤミンの独断で度を越してしまい、殺人事件への関与で指名手配されてしまう。
そこからは、殺人事件の真犯人である世界的ハッカーMRXを特定し、政府に差し出すことで、殺人事件に関する潔白と自らの証人保護を求めるために紛争するというもの。
結末としては2段階あり、まずは、自ら名付けたハッカー集団クレイのメンバー全員が実在せず、ベンヤミンの多重人格であったという結末。
そして、実はその多重人格だったという結末自体がトリックであり、多重人格と見せかけてクレイのメンバーは実在した、という結末。
この、2段階のオチが何よりの魅力だと思います。
主人公のキャラと巧みな伏線がポイント
この映画では、ベンヤミンの多重人格を思わせる細かな伏線が散りばめられています。まずは、ベンヤミンの性格。内気で冴えない陰キャラで、明るい世界に憧れつつも、自分への劣等感で殻に引きこもっているような性格。
そこに突如現れたマックスの存在。マックスは、作中冒頭でも語られているように、『自分とは正反対の性格で、しかし多くの共通点があった』存在。
勘の良い方はここで少しひっかかったのではないでしょうか。偶然にしては出来すぎた、ハッカー同士の出会い。そして相手は自分に無いものを持っていて、自分のことを理解してくれる。
そんな理解者であるマックスは、承認欲求が大きい。重鎮であるMRXにとにかく自分たちを認めさせたい。まるで劣等感の塊であるベンヤミンの気持ちを代弁しているかのようですね。
女性に関しても、好きな女性と上手く話すこともできないベンヤミンと、対照的に社交的なマックス。二人はかなり対照的に描写されています。
ここらへんの、ベンヤミンが多重人格だと言われて納得してしまうような要素の散りばめが、非常に上手だと思いました。
物語の鍵はソーシャルエンジニアリング
ソーシャルエンジニアリングとは、ハッキング行為の一種ですが、ネットワーク上ではなく、現実での物理的・心理的手法を用いて情報を盗み出す手法。物語の冒頭部でマックスの行うソーシャルエンジニアリングが強調されています。
そして、物語の真相は、このソーシャルエンジニアリングで用いられている心理作用を応用したもの。
この物語の進行は、出頭したベンヤミンが捜査官に自白していきながら回想していくという進め方。
捜査官は、ベンヤミンの話を聞きながらも、各部分に散りばめられたトリックにより、自らベンヤミンの多重人格にたどり着きます。
そして、実は、そうやって捜査官が自ら偽の結末にたどり着くよう仕向けることこそがベンヤミンの目的。捜査官は見事に心理コントロールされ、我々視聴者もまたコントロールされていたというわけです。
単に視聴者を心理コントロールするだけでなく、冒頭で敢えてソーシャルエンジニアリングを強調し、登場人物もそれを実践している。そして、実はその手法に視聴者もまさにかけられている、という構成がすごく楽しいです。
何重にも張り巡らされたトリックがミソ
まとめると、「そういうことだったのか!」と思った矢先にそれ自体を否定する新たな「そういうことだったのか!」が浮かんできて、見ている側としてはとてもテンポよく楽しく騙されることができたのではないでしょうか。
単に結末でひっくり返るだけでなく、もう一度ひっくり返すための伏線というものが、とても巧みでおもしろいと思いました。
結末を知った上で、各伏線に注意しながらもう一度見てみると、また新たな伏線が見つかって、違った楽しみ方ができると思いますよ^^